"銀行員の妻も列に並んだ日" 第9話
その境目は細い。
昭2の清吉は、それをらなかった。
支に命じられるまま、
「預は全です」
と叫んだ。
当の自分を責めきることもできない。
もし員全員がへて、
「危ないです。くろしてください」
と言っていたら、事態はさらに悪化しただろう。
かといって、
「絶対に何も起きません」
と言い続けるのが正しかったともえない。
清吉ので、あのはいつまでも決着しなかった。
それでも1つだけ、はっきり変わったことがある。
以の清吉は、に勤めていることそのものを誇りにっていた。
きな建物。
い庫。
数字の並ぶ帳簿。
客がをげてを預ける窓。
それらがの力だとっていた。
しかし今は違う。
の老女が、
「孫のために貯めたおだった」
と言った声。
妻が、
「私はあなたを信じてる。でもは信じてない」
と言った顔。
12歳の娘が、
「は、おじゃなくて何を預かってるの?」
と聞いた夜。
それらの方が、どんな帳簿よりもというものを清吉に教えてくれた。
退職がづいた頃、清吉は研修の最に必ず同じ言葉を言うようになった。
「員は、を数える仕事やない」
若者たちは顔をげる。
「がそのに何を託したか、忘れん仕事や」
その言葉の由来を、清吉は詳しく話さなかった。
自分の妻が取り付けの列へ並んだことも。
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自分名義の通帳を窓へ差しされたことも。
が翌朝扉を閉めたことも。
ただ、昭2のをるとして、その言だけを残した。
昭2。
本各のにい列ができた。
昨まで普通に営業していたのへ、朝くから々が押し寄せる。
商。
職。
で働く者。
主婦。
老。
子どもの学費を貯めている親。
老のためにしずつ預けてきた夫婦。
列に並ぶ理由は、それぞれ違っていた。
しかし皆が求めていたものは同じだった。
自分のを、自分の元へ戻したい。
ただそれだけだった。
その列のには、員自の族さえいた。
藤田清吉は43歳だった。
勤続21。
の仕組みも、預のも、普通の客より分かっているつもりだった。
それでも昭2421の朝、自分の妻を列のに見つけた瞬、初めて分かったことがあった。
員の言う「全」と、預者のじる「全」は同じではない。
側が、
「資産はあります」
と言っても、預者が今必なを受け取れなければになる。
員が、
「落ち着いてください」
と言っても、隣のが全額を引きして帰る姿を見れば、自分も急ぎたくなる。
数字が正しくても、信用が揺らげば列はできる。
そして列ができれば、その列自体がさらに信用を壊す。
清吉はあの、叫び続けた。
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「預は全です!」
自分でも完全には信じられない言葉を。
を守るために。
客を落ち着かせるために。
員として命じられた役目を果たすために。
その列ので、は通帳を握っていた。
窓へ来ると、
「全部」
と言った。
清吉は止めた。
員の族が全部ろせば、何が起きるか分かっていたからだ。
も譲らなかった。
子どもの将来を守る責任があったからだ。
結局、夫婦は完全にはどちらも勝たなかった。
は娘の学費と1か分の活費だけを引きした。
残りはへ置いた。
翌、は臨休業した。
清吉は入で、昨の自分の言葉を客から返された。
「全だって言ったじゃないか」
何経っても、その声を忘れることはなかった。
やがて社会の混乱は落ち着いた。
は理され、統され、浪共栄という名も消えた。
清吉は別の名になったで働き続けた。
芳子はになった。
男も学をた。
と清吉もを取った。
の根は直され、学費は払い終わり、族の通帳にあったも、それぞれののために使われていった。
ある晩。
もう子どもたちがをれた、が古い箪笥を理していた。
奥から、昔の通帳がてきた。
「これ」
が清吉へ差しした。
清吉は表を見て、すぐに分かった。
昭2421。
あの、自分の窓へ差しされた通帳だった。
「まだ取ってあったのか」
「忘れてた」
は笑った。
清吉はページをめくった。
途に、あのの払い戻しが記録されている。
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