"出征前、父が婚姻届を出した" 第10話
「俺は、待っててほしいって言うのが怖かった」
志津子は黙って聞いた。
「俺が帰れなかったら、志津子のまで止める気がして」
「分かってる」
「でも『待つな』って言うのも、結局俺が決めてるだけだったんだな」
志津子は静かに頷いた。
「そうだよ」
「今なら分かる」
2はそこでまた黙った。
これからどうするのか。
すぐに答えをす必はなかった。
征なら、周囲から、
「いつ結婚するのか」
と急かされたかもしれない。
けれど今は、まず2で話すがあった。
正はこれからの仕事を考えなければならない。
学へ戻るのか。
業を伝うのか。
のを選ぶのか。
志津子にも志津子の活がある。
戦争のに決めていた未来を、そのまま復元する必はなかった。
「これから、どうしたい?」
志津子が尋ねた。
正はすぐには答えなかった。
「それを考えるところからだな」
志津子も頷いた。
「私も」
その、2は結婚の取りを決めなかった。
婚姻届も用しなかった。
ただ、これからどうきたいのかを、もう度最初から話し始めた。
藤原へ戻った正に、宗吉は何も聞かなかった。
「どうだった」
とも、
「結婚するのか」
とも言わなかった。
正もすぐには話さなかった。
数、の仕事を伝っていた、正の方からをいた。
「父さん」
宗吉は印刷物を揃えながら、
「何だ」
と答えた。
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「志津子と、これからのことを話してる」
宗吉のが瞬止まった。
「そうか」
「すぐ結婚するかどうかは、まだ決めてない」
宗吉はしばらく黙っていた。
以なら何か言っただろう。
男なのだから。
待たせたのだから。
く決めるべきだ。
そんな言葉がからたかもしれない。
しかし宗吉は印刷物を揃え直しながら言った。
「自分たちで決めろ」
正は父の横顔を見た。
駅で聞いた言葉と同じだった。
今度は列の音も、々の見送りの声もなかった。
ただいつものので、印刷の音だけがしていた。
「うん」
正は答えた。
昭18、戦局の悪化によって、くの学たちは学業の途で活をきく変えられた。
学を卒業してから考えるはずだった仕事。
数に決めるはずだった結婚。
誰と暮らすのか。
どんな庭を作るのか。
本来なら迷いながら、をかけて選ぶことができたはずのことを、若者たちは突然決断するよう迫られた。
その響を受けたのは、征する本だけではなかった。
親も。
兄弟も。
婚約者も。
残された者たちも、それぞれ自分のをどうするのか問われた。
宗吉は最初、
「こんなだから結婚するべきだ」
とった。
志津子は、
「こんなだからこそ、自分で決めたい」
と拒んだ。
正も、彼女のを自分やのために決めることを拒んだ。
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それぞれが正しいとうものは違っていた。
宗吉にとってを守ることは、族を守ることと同じだった。
正にとっては、族だからこそ相のまで決めてはいけなかった。
志津子にとって、正をうことと藤原へ嫁ぐことは、同じではなかった。
誰か1が悪かったわけではない。
ただ、戦争によって本来ならゆっくり話せたはずのことを、あまりにもいで決めなければならなくなった。
藤原が用した婚姻届は、最まで役所へ提されなかった。
それによって志津子は、正がいないも藤原の嫁としてきることをいられなかった。
それでも彼女は自分ので美代や節子を訪ねた。
命令されたからではない。
に縛られていたからでもない。
自分がそうしたかったからだった。
そして正も、帰還したあとで彼女に結婚を求めるのではなく、まず2でこれからのことを話した。
戦争へくに断されたを、そのまま続けるのではない。
変わってしまった自分たちで、もう度選び直すためだった。
節子はになって、駅で父が婚姻届を破ったのことを何度もいした。
あのまでの宗吉なら、のためには婚姻届をすことが当然だと考えていた。
だが息子を送りす直になって、父は初めて放した。
息子のも。
志津子のも。
自分が決めるものではないと認めた。
正が帰ってきた昭21。
藤原には以と同じ4が揃った。
けれど、全てが昔と同じになったわけではなかった。
正も変わった。
宗吉も変わった。
節子も、好きなならただ待つのが当然だとはわなくなっていた。
そして志津子も、誰かに言われて待つ女性ではなかった。
戦争は若い々からくのを奪った。
けれど藤原の々は、そので最まで1つだけ残そうとした。
誰と結婚するのか。
誰を待つのか。
どこできるのか。
それを誰かに決めてもらうのではなく、自分ので決めるためのだった。
昭18に破られた1枚の婚姻届は、結婚を拒んだ証ではなかった。
いつか正が帰ってきた、2がもう度自分たちで答えをすために、あえて残された空だった。
そして3。
正は本当にその空のへ帰ってきた。
今度は誰にも、
「今すぐ決めろ」
とは言われなかった。
2にはようやく、自分たちのを自分たちの速度で考えるが戻ってきていた。
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