"上野駅、弟が消えた夜" 第1話
昭23の、野駅の周辺には、戦争が終わって3が過ぎても消えない傷が残っていた。駅には故郷へ戻る、引き揚げてきた、仕事を求めて方から流れ着いたがひしめき、焼け残った建物の隙にはが肩を寄せるように並んでいた。昼は汽の音と売り声で元まで震えるような騒がしさだったが、が落ちると寒さだけが急に輪郭を持ち、きのない者たちはへ吸い込まれていった。
15歳の館照子も、そののだった。9歳の弟・勇と、野駅にいを寝所にするようになって半ほどになる。空襲で両親を失い、縁の親戚をいくつか頼ったものの、べ盛りの子どもをく置いておけるなど当はほとんどなく、最には姉弟だけで京へ戻ってきた。
朝になると、照子は駅で仕事を探した。きな荷物を運ぶのを伝えば銭がもらえ、運がよければ芋や握り飯を分けてもらえた。仕事が見つからないは古聞や空き瓶を集め、のへ持っていき、ほんのわずかなに換えた。
勇も黙って姉に養われることを嫌がった。線脇や炭置きのくへき、落ちている燃え残りをさな袋に拾い集め、それを欲しがるへしずつ売っていた。照子は危ないからやめなさいと何度も叱ったが、勇はそのたびにを尖らせた。
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「だって、お姉ちゃんばっかり働いてるから。僕だってべるんだよ」
ある夕方、煤で真っ黒になった顔でそう言われた、照子は返す言葉を失った。勇はまだ9歳だといつも言い聞かせていたが、照子自も15歳にすぎない。けれど両親を失ったあのから、自分を子どもだとうことをやめ、弟を守る役目だけは誰にも譲らないと決めていた。
には、つだけ絶対に破らない約束があった。昼どこへっても、どれほどれていても、夜になったらのきな柱のところへ戻ること。似た柱がいくつも並んでいたため、照子は拾ったい布をい位置に結び、それをだけの目印にしていた。
「何があっても、暗くなったらここへ戻るのよ。私が遅れても、勝に違う所へかないで」
照子がそう言うと、勇は決まって真面目な顔をした。
「お姉ちゃんも絶対だからね。僕だけ待たせたら駄目だよ」
「分かってる。約束」
で指を絡める。その約束は、も所もなくなった姉弟にとって、自分たちがまだ族としてつながっていることを確かめるための印のようなものだった。
がまるにつれ、の夜はますます厳しくなった。聞を何枚ねてもコンクリートの気は背までがり、勇は寝入りばなに何度も咳をした。照子は自分のい着を弟の胸元まで掛け、自分は膝を抱えたまま、眠ったのか眠っていないのか分からない夜を過ごした。
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「になったら、部を借りようね」
ある夜、勇が毛布代わりの古布から顔だけして言った。
「部なんて簡単に借りられないわよ」
「じゃあ僕ももっと働く。お姉ちゃんとで働いたら、きっと借りられるよ」
照子は「そうね」と答えた。本当にできるとはっていなかったが、できないとも言いたくなかった。
その頃から、勇はしずつ疲れを見せるようになっていた。炭を拾いにても途で座り込み、べ物を分けると「お姉ちゃんがべて」と返してくるが増えた。照子は気づいていたが、病院へ連れていくもなければ、かい所へ移る方法も分からなかった。
ある朝、勇が珍しく聞いた。
「施設って、どんなところ?」
「施設?」
「駅の向こうで聞いた。子どもを集めて、ご飯をべさせるところがあるんだって」
照子は嫌な予がして、すぐに首を横に振った。
「らないについていっちゃ駄目。そういうところへったら、を別々にされるかもしれないでしょう」
勇は何も言わなかった。
そのの照子は、弟がなぜそんなことを聞いたのかく考えなかった。ただ空腹でべ物の話に惹かれただけだとっていた。
それでもなら何とかなる。
照子はそう信じていた。
なくとも、あのの夕方までは。
その、照子は駅で顔なじみになった男から、きな荷物をしれた倉庫まで運んでほしいと頼まれた。
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