大正5年、大阪の小さな食品加工工場で働く19歳のトミと、14歳の妹・ハル。父を亡くした姉妹の給金は、故郷に残る母と弟たちの暮らしを支える、唯一の収入だった。 やがて女性や年少者の働き方を制限する「工場法」が施行され、トミは、妹が夜遅くまで働かされる日々もようやく終わると信じる。 ところが翌朝も、工場では何一つ変わらなかった。不審に思ったトミが事務所の職工名簿を開くと、そこから14歳のハルをはじめ、年若い女工たちの名前だけが消えていた。 代わりに記されていたのは、実在しない17歳の男工《松崎春吉》。名字も住所も入職日も、すべてハルと同じだった。 工場はなぜ少女たちを別人として記録したのか。そして、妹自身もなぜその嘘を受け入れているのか。家族を養うために働かなければならない少女たちと、妹の名前を取り戻そうとする姉が、「守られること」の厳しい現実に直面する――。