"帳簿から消えた14歳" 第8話
おすすめ作品
-
完結第10話
18年妻だったのに、他人にされた
明治31年、信州の宿場町で酒屋を営んでいた清吉が、流行り病で突然亡くなった。 妻の千代は、18年連れ添った夫を送り出すため、通夜から葬式まで休むことなく働いた。三人の子を育て、店を切り盛りし、町の誰もが彼女を「松乃屋の奥さん」と呼んでいた。 しかし葬式の翌朝、本家の兄が一冊の書類を持って現れる。 「あなたは、清吉の妻として入っていない」 戸籍に名前がない。正式な嫁ではない。松乃屋も土地も家も、本家のもの――。 18年積み重ねた夫婦の暮らしは、一枚の書類で否定されてしまうのか。 夫を失ったばかりの千代に突きつけられた、あまりにも冷たい現実。だが、彼女が守ってきたものは、家でも看板でもなかった。 明治の「家」制度に翻弄されながらも、母と子どもたちが自分たちの居場所を取り戻していく物語。時代|歴史1.5万字5 87 -
完結第11話
最後の転校届
昭和40年、ダム建設によって水没する杉ノ沢村では、家々が次々と解体され、ただ一つの小学校にも5人の児童しか残っていなかった。 女性教師・森山佳代子が気にかけていたのは、6年生の中村修一だった。ほかの家族が転校手続きを終える中、修一だけは転校届を持ってこない。父親は移転に反対していないはずなのに、なぜ息子の進路だけ決めないのか。 ある日、佳代子が中村家を訪ねると、家はすでに取り壊されていた。修一は一か月以上も前に移転し、十数キロ離れた新居から、雨の日も自転車で旧村の学校へ通い続けていたのだ。 「なくなるなら、最後までいたい」 卒業まで杉ノ沢小学校へ通いたいと訴える修一。しかし冬が訪れ、雪にまみれて登校した少年を前に、佳代子はついに父親が差し出した転校届を受け取る。 故郷を奪いたくないという少年の願いと、未来へ送り出さなければならない教師の責任。村が湖底へ消える最後の春、二人の別れをつなぐ一枚の写真が残される――。時代|歴史|昭和1.6万字5 6 -
完結第10話
16歳、家を出た姉
昭和8年、不況と凶作に苦しむ岩手の山村で、16歳の千代は両親と4人の弟妹と暮らしていた。 米櫃は底をつき、母は自分の食事を幼い子どもへ譲り、父は昼飯も持たずに働いていた。父から奉公を禁じられた千代は、「私が一人減れば、四人分でいいでしょ」という置き手紙を残し、家族に黙って盛岡の料理屋へ向かう。 3か月後、千代から5円の郵便為替が届いた。それから毎月、同じ料理屋の名で仕送りは続いたが、千代自身の手紙だけは一度も届かなかった。 2年後、不安を抱いた弟の勇一は、貯めた汽車賃を握りしめ、一人で盛岡へ姉を捜しに行く。ところが料理屋の女将から告げられたのは、思いもよらない事実だった。 「千代なら、ここには3か月しかいなかったよ」 では、毎月途切れずに届いていた5円は、どこで働く誰が送っていたのか。家族を生かすために居場所も言葉も隠した少女と、姉の行方を追う弟の長い旅が始まる――。時代|歴史|昭和1.5万字5 6 -
完結第10話
上野駅、弟が消えた夜
昭和23年。空襲で両親を失った15歳の照子は、9歳の弟・勇とともに、上野駅の地下道で暮らしていた。 どれほど離れて行動しても、夜になれば必ず大きな柱のそばへ戻る。それが、姉弟が生き延びるために交わした、たった一つの約束だった。 ところがある冬の夕方、照子が地下道へ戻ると、柱の下には勇の靴が片方だけ残されていた。駅前や闇市を必死に捜しても弟は見つからず、警察も家のない子どもの訴えをまともに取り合ってはくれなかった。 数日後、勇が郊外の児童保護施設にいると知った照子は、すぐに会わせてほしいと頼む。しかし職員から告げられたのは、思いもよらない言葉だった。 「弟さんは、姉はいないと言っています」 寒さも空腹も二人で耐えてきたはずなのに、なぜ勇は姉の存在を隠したのか。戦後の地下道で離ればなれになった姉弟が、それぞれ胸に抱えていた小さな決意が明らかになる――。時代|歴史|昭和1.5万字5 0 -
完結第10話
焼け残った家を壊せと言われた
昭和23年、戦争の傷跡が残る東京の下町で、信一は父とともに、空襲を奇跡的に免れた小さな豆腐屋を守っていた。 ところがある日、役所の職員が店先に白い杭を打ち、「この場所には、もう家を建て直せません」と告げる。新しい道路の予定地になったため、焼け残った家も取り壊さなければならないというのだ。 駅近くの換地へ移れば、商売を大きくできる。そう考える信一に対し、父の清吉は頑として立ち退きを拒み、母まで「この家を離れられない」と言い出した。 なぜ両親は、暮らしやすい新天地より、焼け跡に残った古い家にこだわるのか。 やがて母が仏壇の引き出しから取り出した一冊の帳面によって、信一は、この家に戦後から守られてきた「ある記憶」があることを知る――。時代|昭和1.5万字5 33 -
完結第10話
毎日パンを持ち帰る少女
昭和38年、東京近郊の小学校で、5年生の和美は毎日、給食のコッペパンを半分だけ鞄にしまって帰っていた。 貧しいからなのか。家に小さな弟がいるからなのか。教室では噂が広がり、担任の芳江もその理由を気にかけるようになる。 しかし家庭訪問で分かったのは、和美の家が食べ物に困っているわけではないということだった。 それでも祖父は、孫が持ち帰るパンを毎日じっと見つめ、決して食べようとはしない。 なぜ老人は、学校で出された一個のパンにそこまでこだわったのか。 その理由には、戦争と食糧難の時代を生き抜いた祖父が、長い間胸に抱え続けてきた記憶が隠されていた――。時代|歴史|昭和1.5万字5 629