"赤ワインの余興" 第10話
澄みわたる朝の
あの結婚披宴の結末から、ヶのが穏やかに流れていった。
特捜部に連された達也、真由美、の名に対する取り調べは迅速だった。私が提した監査報告や座の資追跡記録、偽造類の証拠はあまりにも完璧であり、彼らには言い逃れの余など切残されていなかった。
京方検察庁は、状酌量の余なしとして全員を起訴した。
刑事裁判の法廷においても、兄妹は見苦しい責任の擦り付けいを演じ続けたが、裁判官の徹なによって蹴された。
億千万円の業務横領、背任、印私文偽造・同使、そして披宴での暴罪。達也と真由美には執猶予のない期の実刑判決がされ、刑務所へと送られた。資洗浄と共謀の罪に問われたにも、い実刑判決が言い渡された。
さらに、赤松会から請求された披宴止に伴う数千万円の損害賠償、そして郷田物産からの横領の全額返還命令。文学な負債を背負った郷田物産は即座に倒産し、郷田の資産はすべて差し押さえられた。
親戚同からも完全に絶縁され、彼らの名は社交界から永に抹殺された。
達也が勝に偽造した連帯保証類は無効と認定され、庭裁判所の審判を経て、私と達也の婚は正式に成した。
広告
私の戸籍から、あの男の痕跡は完全に消ぎ落とされたのだった。
事件から数、私は都内の迎賓で、赤松総と郎の修平さんを迎えていた。
部に入るなり、は直の姿勢で々とをげた。
「藤総帥、この度はが赤松のにより、変なご迷惑をおかけいたしました」
老総の声は震えていた。息子の修平さんも、い決を込めた差しでを垂れている。
「総帥、俺は医師でありながら、のを見る目を失っていました。世らずの甘さが招いた過ちを、骨に染みて痛しております。父とも相談し、経営の第線からは完全にを引く決を固めました。来より、過疎域の救急医療センターへの臨医として赴任します。命の現で、からやり直す覚悟です」
青の表には、かつて砂席で見せた甘さや油断は微もなかった。
私はへ向けて、静かに柔らかな微笑みを浮かべた。
「赤松総、そして修平さん。どうぞ顔をおげください。壇で指輪を引き抜き、悪を毅然と拒絶した修平さんの決断は見事でした。過ちを潔く認めてを向く方に、私から制裁をすつもりはありません」
私は机のに置かれていた、しい業務提携の類を差しした。
「藤グループは今も、赤松会への先端医療支援を継続いたします。
広告
ただしこれからは、純粋に患者と域社会のために尽くしてください」
赤松総の目から、温かい涙がこぼれ落ちた。
「この命に代えて、総帥の尊いお志にお応えすることをお誓いいたします……!」
打算で結ばれかけた歪んだ縁は断ち切られ、誠実な絆だけが残されたのだった。
それから数週が過ぎ、澄み切ったのが都を吹き抜けていた。
京の並みを望できる、藤タワー最階の最総帥。
あの、赤ワインで汚された淡い藤の訪問着は、証拠としての役目を終えて静かに処分されていた。
今の私がにまとっているのは、仕ての美しい純のパンツスーツ。胸元の襟には、純の鳳凰を象った総帥章が、控えめながらも確かな輝きを放っている。
磨きげられた執務机のには、湯気をてる温かいダージリンティー。
机の端に置かれた端末から、愚かな者たちの雑音は完全に消えっていた。そこにあるのは、グループ各社から寄せられる、誠実で向きな事業報告だけだった。
私はカップをに取り、茶を静かに含んだ。
素朴な庭の温もりを信じ、素性を隠して耐え忍んだ。
それは決して無駄なではなく、の欲の浅ましさと、真実のさをるための試練だったのだとう。の真を具のように扱い、優越に溺れる者に、本物の幸せが訪れることはない。
控えめなノックの音が響き、女性秘が静かに礼して入ってきた。
「総帥、来度におけるグループ全社の基本方針でございます」
「ありがとう」
秘から受け取ったバインダーをき、万をにする。真っな署名欄へ、淀みない致でペン先を滑らせた。
そこには、偽りのない私の本当の名が、美しく刻まれた。
類を閉じ、私はゆっくりとちがってきな窓辺へと歩み寄った。
に広がる巨なを、眩しい朝のが優しく照らししている。
私のには、自らの志と誇りで切りく、揺るぎない未来がどこまでも広がっていた。
私は静かに微笑み、満ちりたのへと、確かな歩を踏みした。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 33 -
完結第14話
金髪の女子高生に、娘が「ねえね」と手を伸ばした
「ねえね」——1歳10か月の娘が手を伸ばしたのは、金髪にピアス姿の女子高生だった。妻を亡くし、実家で娘の紬を育てる26歳の挿絵画家・湊。思わず娘を抱き寄せた彼とは対照的に、少女・凛は頬を赤くして「可愛い」とつぶやく。それから買い物帰りに顔を合わせるようになり、凛は父娘の日常に少しずつ溶け込んでいく。ところがある夕方、湊は公園で泣いている彼女を見つける。紬が差し出したのは、亡き母から贈られた大切な白いうさぎ。そして凛のかばんにも、古びたうさぎが入っていた。描きかけの絵本に隠された夢と、母親に言えなかった思い。話を聞こうと隣に座った湊自身もまた、誰にも打ち明けられない寂しさを抱えていた。感動|人生逆転1.7万字5 1 -
完結第16話
「姉の足を折る」と笑った地元の顔役――7年ぶりに帰った“工場勤務”の弟を見下したが、彼の本当の勤務先を知った時にはもう遅い
32歳の佐藤健二は、神奈川の工場で働いていると家族に嘘をつき、陸上自衛隊に勤務していた。故郷を離れて7年。ある日、姉・由美子が営む食堂が地元企業の社長・山田大蔵に襲われ、母まで倒れたと知らされる。再開発予定地を狙う山田は、警察官や市役所職員と結託し、1600万円で店を奪おうとしていた。健二を貧しい工員だと決めつけ、「次は姉の足を折る」と笑う山田。だが健二は拳を使わず、11回の不正閲覧、病室の録音、4600万円の資金移動を一つずつつなぎ、町を支配する巨大な癒着へ迫っていく。兄弟姉妹2.1万字5 3 -
完結第20話
娘の披露宴に新郎側が全員欠席――清掃員の夫が動いた
一人娘の紗良が待ち望んだ結婚式。しかし披露宴当日、新郎側の42席はすべて空席だった。ようやくかかってきた婚約者からの電話には、「結婚なんて冗談だ」という声と、清掃員の父を見下す家族の笑い声。泣き崩れる娘を抱きしめる母・千尋の隣で、いつも穏やかな夫・涼一が静かに言った。「あの一族は、もう切る」。翌朝から、新郎一家の電話が鳴りやまなくなる。三十一年間、黙々と床を磨いてきた夫には、家族さえ知らない一面があった。あの一言には、いったいどんな意味が隠されていたのか。因果応報|人生逆転|夫婦|第二の人生2.7万字5 115 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 47 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 84 -
完結第15話
年収三千万円の嘘
41歳の内科医・相沢まりなは、家事と育児を任せていた専業主夫の康太が、息子のサッカークラブの保護者・美沙と親密な関係になっていたことを知る。しかも二人は、子どもたちを置き去りにして密会を重ねていた。息子を守るため離婚を決意したまりなのもとに、ある日、美沙から再婚式の招待状が届く。驚いたことに、康太は自分を「年収3000万円の医師」だと偽っていた。元妻を見下し、披露宴で祝辞まで読ませようとする美沙。招待を受けたまりなは、いったい何を語るのか。夫婦|第二の人生|不倫2.6万字5 116