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完結第14話
「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの
昭和31年、佐々木商店を継ぐため東京での就職を断った長男・一郎に、父の源三は「店は健二に渡す」と告げた。理由を聞けないまま一郎は家を出て、父と距離を置く。 数年後、客足の減った店に戻った一郎は、父が商店街の先行きを案じ、自分を家業に縛らないために送り出したと知る。しかし、父の判断を理解しても、弟だけに店の重荷を負わせたことは見過ごせなかった。 一郎は東京で学んだ工夫を持ち込み、昔からの客に向けた電話注文と配達を始める。店のやり方をめぐって父とぶつかりながらも、源三が築いた信頼を次の時代へつなごうとする。時代|歴史|昭和2.1万字5 350 -
完結第14話
配給米を隠す母の秘密
昭和22年。父が戦地で消息を絶った佐藤家では、16歳の正一が働いて家計を支えていた。そんな中、母の静江が配給の米を毎月一升ずつ隠していることに気づく。弟の茶碗にだけ白米が多いのを見て、正一は「自分だってまだ子どもなのに」と傷ついた。 ある夜、米を持って出かける母を追うと、駅裏の仮設住宅にいたのは、帰らないと思っていた父・清一だった。復員後に病気と足の障害を抱えた父は、家族の食べる分が減ることを恐れ、家へ戻れずにいた。 正一は父を迎え、家族はそれぞれにできる仕事を探しながら暮らしを立て直していく。母が米袋に書き続けた「一升」の記録には、苦しい時代にも父を家族のままにしておこうとした思いが残っていた。時代|歴史|昭和2.2万字5 225 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 355 -
完結第12話
父の「一万円」に隠された借金
昭和38年、山形の農村から東京へ出稼ぎに出る父・栄吉は、雨で工事が止まった月も、正月も、必ず一万円を家族へ送り続けていた。長男の隆夫は、そんな父を誇りに思い、自分も卒業後は東京で働こうと決める。 ところがある日、建設会社から《前貸金を返済してください》という手紙が届く。栄吉は怪我で働けなかった月まで会社から金を借り、「今月も家族を養えた」と示すため、同じ一万円を送り続けていたのだ。 父の暮らす飯場を訪ねた隆夫は、狭い部屋や過酷な建設現場、痛めた足を目の当たりにする。そして父の苦労をそのまま繰り返すのではなく、職業訓練校で建設機械の技術を学び、自分なりの東京での生き方を選ぶ。 家族が必要としていたのは、毎月変わらない金額でも、弱音を見せない父親でもなかった。苦しい時に「苦しい」と伝え、無理のない形で支え合うことの大切さを描いた、昭和の出稼ぎ家族の物語。時代|歴史|昭和1.8万字5 2029 -
完結第13話
帰ってきた姉を母は拒んだ
昭和33年の春。結婚を1か月後に控えた春子の家へ、8年前に東京へ出た姉・文江が突然帰ってきた。しかし母は娘を抱きしめるどころか、「祝言が終わるまで来ないで」と玄関から追い返してしまう。 文江が身を置いていたのは、女中奉公の家ではなく赤線の店だった。売春防止法の全面施行によって店が閉じ、横浜の縫製工場で再出発するため、戸籍の書類を取りに戻っただけだった。 やがて春子は、女学校の入学金も嫁入り道具も、姉が過酷な生活の中から送り続けた金で賄われていた事実を知る。さらに婚約者の家から「姉と縁を切るなら結婚を認める」と迫られ、春子は人生を左右する選択を突きつけられる。 家族を守るため、一人を家の外へ追いやればよいのか。世間の偏見と家族の罪に向き合い、消されていた姉の存在を取り戻していく姉妹を描いた、昭和の再生物語。時代|歴史|昭和1.9万字5 1437 -
完結第12話
昭和41年、集団就職の少年が一年ぶりに帰った故郷
昭和41年春。15歳で集団就職のため上京した正一は、一年ぶりに山形の故郷へ帰る。成長した姿を家族に見せようと胸を弾ませていたが、駅に父の姿はなく、母の手紙には「父さんのことは、帰ってから話します」と記されていた。 家へ戻った正一が知ったのは、父の大怪我と、毎月送っていた仕送りが自分名義で貯金されていた事実。そして、弟・健二が進学を諦め、兄と同じ集団就職の道を選ぼうとしていることだった。 自分が働いた一年を否定せず、それでも弟には自分で人生を選んでほしい。正一の訴えをきっかけに、家族は一人へ負担を押しつけるのではなく、それぞれが支え合う道を探し始める。 故郷と東京、二つの居場所の間で少年が見つけたのは、離れることと失うことは同じではないという答えだった。集団就職の少年と家族の再出発を描く、昭和の成長物語。時代|歴史|昭和1.7万字5 849 -
完結第12話
十四歳で板前奉公へ――少年が料理人になるまで
昭和の初め、貧しい山村で育った14歳の正一は、進学を望みながらも、父に決められた料理屋へ住み込み奉公に出される。最初に渡されたのは包丁ではなく、一枚の雑巾だった。 厳しい親方のもとで失敗を重ね、何度も帰郷を考えた正一。しかし、一本の古い包丁と、客からもらった「うまい」の一言が、少年の人生を変えていく。家の事情で始まった奉公は、やがて自ら選び直した料理人への道となった。 戦争、結婚、独立、店の経営、弟子との出会い。そして息子が14歳になった時、正一は自分が奪われた「人生を選ぶ権利」を、息子へ渡す決断をする。 始まりは選べなくても、途中から道は選び直せる。一本の包丁とともに昭和を生きた料理人の、長い人生を描く物語。時代|歴史|昭和1.8万字5 1356 -
完結第12話
昭和27年、父は町長へ戻らなかった
「父さん、もう一度町長になれるんだよ」 昭和27年、公職追放の制限がなくなる知らせを見て、17歳の私は家へ走った。 かつて町長だった父は、追放後、米俵を運び、工事現場で働いていた。 これで失った名誉を取り戻せる。 そう信じた私に、父は言った。 「もう役場には戻らん」 その後、元町議や商店街の人々が次々と父を訪ねた。 それでも父は、町長選への出馬をすべて断った。 「見返してやればいい」と訴える私へ、父は静かに言った。 「そんな理由で町長になる奴が、一番町長になっちゃいかん」 数日後、町の米屋で、私は父が町長だった頃の“ある決定”について初めて聞かされた。時代|歴史|昭和1.7万字5 650 -
完結第10話
昭和21年、港で「娘ではない」と言った母
「兄さん。この子は、私の娘ではありません」 昭和21年、引揚船から降りた母は、港で突然そう言った。 右手には、11歳ほどの少女の手を握っていた。 少女は青ざめ、母の袖へしがみついた。 「お母さん……?」 母はその場にしゃがみ、少女の肩を抱いた。 「ごめんね、春恵」 しかし日本へ届いた葉書には、母が連れ帰るのは《娘の文子》だと書かれていた。 では、文子はどこへ消えたのか。 その夜、母は兄夫婦の前で、引揚げ途中に起きたことを語り始めた。 「暗闇で一度だけ、娘の手を離してしまったの」時代|歴史|昭和1.5万字5 1974 -
完結第10話
昭和33年、父が隠した高校合格通知
「父ちゃん、今日も合格通知、来てない?」 正吉は新聞から目を上げず、「来てない」と答えた。 修一は、自分は落ちたのだと思った。 ところが翌朝、母が仏壇の引き出しから見慣れない封筒を見つけた。 宛名は修一。 差出人は、受験した県立高校だった。 震える手で封を切ると、そこには《合格》の二文字。 しかも消印は、三日前だった。 その日の夕方、修一は通知を食卓へ置いた。 「父ちゃん、これ知ってた?」 父はしばらく黙ったあと、低い声で答えた。 「ああ。俺が隠した」時代|歴史|昭和1.5万字5 538 -
完結第10話
昭和31年、給料日に消える父の秘密
「お父さん、どうして給料日だけ帰ってこないの?」 昭和31年、父は毎月その日だけ、夜遅くまで姿を消した。 酒も飲まず、賭け事もしない父だった。 それでも理由を聞けば、「男にはいろいろある」と口を閉ざした。 やがて父の腕時計が消えた。 次は冬のコート、その次は革鞄と大工道具だった。 不安になった母は、父が別の女性と会っているのではないかと疑い始めた。 ある給料日、中学1年の私は工場を出た父をこっそり追いかけた。 父が入ったのは酒場でも、女性の家でもなかった。 古い時計や工具が並ぶ、一軒の古物商だった。 15分後、父は持っていた包みを失い、代わりに数枚の紙幣を財布へ入れて出てきた。 その夜、母に問い詰められた父は、いつもと同じ厚さの給料袋を黙ってちゃぶ台へ置いた。時代|歴史|昭和1.5万字5 672 -
完結第10話
昭和39年、姉の「元気です」に隠された嘘
「元気です。心配しないでください」 昭和39年、15歳で東京へ集団就職した姉は、毎月その一行だけを送ってきた。 手紙好きだった姉が、家族へ何も書かなくなった。 しかも葉書の消印は、北区、荒川区、足立区、墨田区と毎回違っていた。 「姉ちゃん、本当はどこにいるの?」 妹が尋ねても、返事はまた同じだった。 《ちゃんと同じ工場で働いています。元気です》 正月にも帰らず、工場の住所さえ知らせない姉。 やがて同じ町から東京へ出た少女が、体を壊して帰郷した。 「春ちゃん、何度か私の寮へ来たよ」 そう言って少女が差し出したのは、青森の両親へ送った一通の手紙だった。 差出人は少女の名前――しかし、そこに並んでいた文字は間違いなく姉の筆跡だった。時代|歴史|昭和1.4万字5 786 -
完結第10話
給食を食べなかった少女
「先生、お腹が痛いです」 昭和30年、11歳の少女は給食の時間になると、毎日決まって教室を出ていった。 熱はなく、午後の授業には何事もなかったように戻ってくる。 不審に思った担任があとを追うと、少女は校舎裏で水だけを飲んでいた。 家では、何か月も給食費を払えていなかった。 「私だけ払ってないのに食べたら、ただでもらうみたいだから」 担任が給食を勧めても、少女はパンを弟へ持ち帰るようになった。 そして冬、机の中から硬貨の入った小さな封筒が見つかる。 「これは何のお金?」 「中学校へ行くためのお金です」 少女は自分の食べる分を減らし、受験費用を貯めていた。 だが父は、卒業したら働いて家計を助けるよう命じていた。 担任が封筒を父の前へ置くと、少女は震える声で初めて本心を告げた。時代|歴史|昭和1.5万字5 585 -
完結第11話
「もう来なくていい」17歳の姉が偽名で働き続けた理由
「高瀬さん、今日から工場へ来なくていい」 集団検診の翌朝、17歳の姉だけが門前で止められた。 寄宿舎へ戻ると、作業着も櫛も裁縫箱も、すべて紙箱に詰められていた。 理由を聞いても、姉は「知らん」としか答えない。 周囲では、盗みをしたのではないかという噂まで広がった。 3日後、妹は姉の前掛けから一枚の紙を見つける。 赤鉛筆で書かれていたのは、 《要精密検査》 姉は病院へ行かず、寄宿舎からも姿を消した。 一週間後、別人の名前で小さな縫製工場に勤めていることが分かる。 「病気やと決まったら、家族へ金を送れへん」 だが翌月、その名前の本当の持ち主が大阪へ来ることになった。 しかも工場では、全員の胸部検診が予定されていた。時代|歴史|昭和1.6万字5 209 -
完結第11話
「名前を書くな」公害病の申請を止めた父と、娘の「息がしたいだけ」
「その申請書に、名前を書くな」 昭和49年、ぜん息で学校の校庭に倒れた12歳の娘へ、父はそう言った。 父が18年間働いてきたのは、町の空を煙で覆う臨海工場。 申請すれば、治療費の負担が軽くなるかもしれない。 だが同じ頃、父には念願だった班長昇進の話が出ていた。 「会社と地域の間に立つ人間として、よく考えてほしい」 係長の言葉に、父は申請書を引き出しへしまった。 数日後、食卓に置かれた書類には、娘の名前だけが書かれていた。 「私、お父さんの会社を潰したいんじゃない」 娘は咳をこらえながら、父を見上げた。 「ただ、息がしたいだけ」 その週の土曜日、父は娘と役所を訪れた。 保護者署名欄を前に、父のペンは長い間止まったままだった。時代|歴史|昭和1.6万字5 148 -
完結第11話
13歳の娘だけ、保険証にいなかった
「お母ちゃん、どうして私の名前だけないの?」 昭和36年、藤井家に届いた新しい国民健康保険証。 父、母、10歳の弟、7歳の弟――家族全員の名前が並んでいた。 けれど13歳の美津子だけが、どこにも載っていなかった。 母は保険証を取り上げ、「役場の間違いだから」と隠した。 父も黙ったまま、一度も娘の顔を見なかった。 不安になった美津子は、翌朝一人で役場へ向かった。 職員は台帳をめくると、急に表情を曇らせた。 「お母さんと一緒に来た方がいい」 「私、藤井美津子ですよね?」 返事はなかった。 そして最後に、職員は重い口調で告げた。 「あなたは、修一さんと和子さんの戸籍には入っていないんだよ」 その夜、美津子が「私は誰の子なの」と問い詰めると、母は13年間隠してきた女性の名前を口にした。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 708 -
完結第11話
破られた団地当選通知
「せっかく当たったのに、どうして破いたんですか!」 昭和35年、7人で暮らす古い長屋に、公団住宅の当選通知が届いた。 風呂も水洗便所もあり、3人の子どもには初めて自分たちの部屋ができる。 家族全員が喜んだ3日後、その通知は4つに裂かれてゴミ箱から見つかった。 破いたのは、同居する母だった。 「一生、私たちをこの長屋に閉じ込めるつもりですか」 嫁に責められても、母は理由を話そうとしない。 息子夫婦は、破れた通知を持って公団の案内所へ向かった。 当選はまだ取り消されておらず、案内された部屋は日当たりのよい3DK。 ところが建物の前で、嫁の足が止まった。 割り当てられた部屋は、エレベーターのない4階だった。 その細く長い階段を見上げた瞬間、家族は母が通知を破いた本当の理由に気づき始めた――。時代|歴史|昭和1.6万字5 2824 -
完結第11話
出生届を止めた助産婦
昭和30年の秋、信州の山村で二人の女が同じ夜に女児を出産した。介助したのは、村でただ一人の助産婦・松永ハルだった。 一人目の赤子を連れて次の難産へ駆けつけたハルは、夜明け前の混乱の中で、二人をほんのわずかな間だけ同じ布団へ寝かせてしまう。 翌日、ハルは異変に気づいた。最初に生まれた子の左肩にあった青い痣が、もう一方の家にいる赤子へ移っていたのだ。 「この子の出生届だけは、あと二、三日待ってください」 問い詰められたハルは、ついに二人の赤子を取り違えた可能性を告白する。しかし血を確かめる術のない時代、頼れるのは曖昧な記憶と、痣や足の形だけだった。 しかも二人の母親は、すでに三日三晩、腕の中の赤子へ乳を与え、泣けば抱きしめていた。元へ戻すべき命と、もう生まれてしまった情――戸籍には記せない選択を、二つの家族が迫られることになった。時代|歴史|昭和1.6万字5 1779 -
完結第10話
知らない家族が守った家
昭和27年、7年間接収されていた世田谷の自宅へ、ようやく戻った杉浦一家。 ところが庭には洗濯物が干され、家の中には見知らぬ母子が暮らしていた。しかも7歳ほどの少年が、杉浦家の仏壇に毎朝手を合わせていた。 「今週中に出ていってください」 家を取り戻した忠雄に譲るつもりはなかった。しかし母子には行き先がなく、二つの家族は一時的に同じ屋根の下で暮らすことになる。 やがて押し入れから、亡くなった母子の父親が残した古い帳面が見つかった。そこには屋根や雨戸、仏間を修理した7年間の記録が、細かな日付とともに記されていた。 「ここは自分たちの家ではない。いつか持ち主が帰ってくる」 少年が仏壇へ手を合わせていたのは、帰る場所を失った父が、まだ見ぬ家主のために守り続けた約束だった――。時代|歴史|昭和1.5万字5 331 -
完結第11話
母が守った「4人目」
昭和23年の冬。空襲で夫を亡くし、3人の子どもを育てる富美は、配給所へ行くたびに言い張った。 「うちは、子どもが4人です」 台帳に残るもう一人は、3年前の空襲で消息を絶った長男・正一だった。町内から「いない子の分まで受け取るのはずるい」と責められ、次男の昭夫まで学校で泥棒扱いされる。 耐えかねた昭夫が母に内緒で配給人数を訂正しようとすると、富美は物置へ彼を連れていった。そこには3年間、一粒も食べずに取っておいた正一の米があった。 「帰ってきた時、また“あなたの分はない”なんて言いたくなかったの」 しかし厳しい冬のある日、空腹で震える少年が家を訪れる。富美は長い間守り続けた甕を見つめ、やがて昭夫へ静かに告げた。 「取ってきて」――正一を待つための米が、今ここにいる子どもたちの命をつなぐ食事へ変わった夜だった。時代|歴史|昭和1.6万字5 629