"毎週木曜、つながらない番号へ" 第7話
翌12も朝からへ勤しており、なくとも午6ごろまでは自が姿を見ている。それなのに会社の記録では、千鶴は11の午に退職と積を受け取り、寄宿舎をたことになっていた。
「千鶴、しから帳簿のことを気にしていました」
はそう続けた。
では女子員の料から、寄宿舎費とは別に「積」が引かれていた。千鶴は数字にく、同じ部の女たちから頼まれて料袋を緒に確認することがあった。そのうち、与細にかれた積額と、末に配られた残票の数字がわないことに気づいたという。
最初は単なる計算違いだとっていた。
しかし10以の残を比べると、しずつしていた。
が資難になったの以、その差額はきくなっていた。
「千鶴は経理の片岡さんに聞きにったんです」
片岡繁雄は46歳で、亜繊維楢沢の経理責任者だった。閉鎖は本社の理部へ移り、現も県内にんでいる。によれば、千鶴が質問をした翌から、片岡は寄宿たちへ「帳簿を勝に調べるな」と注するようになったという。
さらに3旬、千鶴はに奇妙なことを話していた。
「私、もう辞めたことになってるみたい」
は冗談だとった。千鶴は毎で働いており、退職届をいたこともなかったからである。
広告
しかし事務所に置かれていた退職者覧を偶然見たところ、自分の名が311付で記載されていたと千鶴は言っていた。
美代子は志津の証言をいした。
「お母ちゃん、私、辞めたことにされてる」
最の話で千鶴が言った言葉と致している。
はさらに、内で広まった別の噂について話した。千鶴には械修理を担当していた若い男と親しい関係があり、その男と駆け落ちしたのだという話が、失踪直から急に広まったらしい。側も族へ似た説をしており、それが警察がの能性をく見た理由のつだった。
ところが修がその男の所を調べると、話は簡単に崩れた。
男は310からの系列へ応援にており、千鶴が消えた12には楢沢町にいなかった。
誰かが、千鶴の失踪を「若い男女の駆け落ち」に見せようとしていた。
そしては最に、もうつ証言した。
312の午9半ごろ、寄宿舎の裏に黒い会社のトラックがまっているのを見たという。
警察は亜繊維の帳簿を押収し、積の記録を調べ始めた。すると予以にきな問題が見つかった。複数の寄宿について、与から差し引かれた積額と実際に保管されている額が致せず、閉鎖直には相当額が会社の運転資へ流用されていた形跡があったのである。
広告
千鶴だけの問題ではなかった。
が経営難に陥ったから、女子員たちの積がしずつ別の座へ移されていた。その処理を担当していたのが片岡繁雄であり、退職者へ支払ったことにする類も複数作られていた。
千鶴の退職類もそのつだった。
退職願には千鶴本の署名があったが、澄は目見ただけで「娘の字ではない」と言った。警察が過のや履歴と比較すると、跡にはらかな違いがあり、退職の受領印にも自然な点が見つかった。
それでも千鶴の居所は分からなかった。
片岡は事聴取に対し、積の流用は会社の指示でったものであり、自分の判断ではないと主張した。千鶴については「311に退職したと聞いただけで、そののことはらない」と繰り返した。
美代子には、その説を信じることができなかった。
問題は312午9過ぎの話だった。
志津がつないだはずの距話。その接続票だけが消えている。
美代子と志津は保箱を何度も確認した。312の束には8台と10台の記録が残っているのに、9台だけ自然に枚数がない。しかも通話料の集計表を見ると、接続票の計額より30円く記録されていた。
つまり件分の通話記録が抜き取られている。
その話自体は、確かにしていた。
「相の番号、いせませんか」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
帰ってきた長男に家はなかった
昭和21年の春、10歳の正一は母に手を引かれ、復員列車から降りてくる父を待っていた。 3年前に出征した父・慎太郎は、痩せ細った姿でようやく故郷へ戻ってきた。母は泣き崩れ、正一は家族が元に戻ると信じた。 しかし、呉服店の前に立った祖父は、帰ってきた父に向かって言った。 「お前は、この家には入れん」 父がいない間、店を守っていたのは弟の隆次だった。さらに父の後ろには、引き揚げの途中で出会った若い女性の姿があった。 待ち続けた妻、店を守った弟、帰る場所を失った女性、そして戻ったはずの家に居場所をなくした父。 戦争が終わっても、家族の時間は元には戻らない。 復員列車が運んできたのは、再会の喜びだけではなかった――。時代|歴史|昭和1.6万字5 2 -
完結第11話
「ただいま」と帰った亡き夫
昭和31年、雪の降る京都北部の小さな町。 佐和子は、夫の隆一、12歳の娘・節子、6歳の息子・正彦と、穏やかな日々を送っていた。だが節子の実父は、11年前に戦死したはずの男だった。 遺骨もなく、写真だけを墓に納め、何年も帰りを待ち続けた佐和子。やがて彼女は、残された親子を支え続けてくれた隆一と再婚し、ようやく「戦争は終わった」と思えるようになっていた。 そんなある雪の日、玄関に見知らぬ男が立っていた。 痩せた頬、古びた外套、白髪の混じった髪。けれど、その目だけは忘れようのない人だった。 「ただいま」 死んだはずの夫・信夫が、11年ぶりに帰ってきた。 帰る場所を信じ続けた男と、死別を受け入れて生き直した女。残された母娘を守ってきた男。そして、写真の中でしか知らなかった父と向き合う娘。 誰も悪くない。誰も裏切っていない。 それでも、11年という歳月は、ひとつの家族を静かに変えてしまっていた――。昭和1.6万字5 152 -
完結第10話
銀行員の妻も列に並んだ日
昭和2年、大阪。 銀行の前には、通帳と印鑑を握りしめた人々の長い列ができていた。怒号が飛び交う中、銀行員の藤田清吉は何度も声を張り上げる。 「預金は安全です!」 しかし清吉自身、その言葉を心から信じてはいなかった。前夜、支店長室で告げられたのは、銀行がすでに危うい状態にあるという現実だった。 それでも行員として、人々を落ち着かせなければならない。 そう思って列の前に立った清吉の目に、ある人物の姿が飛び込んでくる。 通帳を握りしめ、預金を下ろす列に並んでいたのは、ほかでもない清吉の妻・春江だった。 銀行を守るのか、預金者を守るのか、それとも家族を守るのか。 昭和金融恐慌の混乱の中で、一人の銀行員が向き合ったのは、お金よりも重い「信用」の崩壊だった。時代|歴史|昭和1.5万字5 3 -
完結第10話
米蔵を開けた娘
大正7年、米の値段が日に日に上がり、人々の暮らしが追い詰められていた大阪の町。 長屋街で米屋「山城屋」を営む徳蔵の娘・千代は、店先で米を買えずに帰っていく母親たちの姿を見て、胸を痛めていた。けれど店の裏の蔵には、まだ何十俵もの米が積まれている。 なぜ父は、困っている人たちに米を売らないのか。 商売を守ろうとする父と、目の前の空腹を見過ごせない娘。ある日、父が店を離れた隙に、千代はついに蔵の鍵を手に取る。 しかし、善意で開けたはずの蔵の扉は、町の怒りを一気に呼び込んでしまう。 米を求める人々が押し寄せる中、父・徳蔵が向かった先は警察だった。 あの日、蔵の前で父と娘が見たものは、ただの米騒動ではなかった。 一杯の飯をめぐって、商売の責任と人の暮らしが激しくぶつかった夏の物語。時代|歴史1.4万字5 11 -
完結第10話
米はあるのに、田を売った
明治6年、信州の小さな村に新しい税の知らせが届いた。 これまで米で納めていた年貢は、これから「金」で納めることになるという。百姓の源蔵は、米を売れば払えるはずだと考えていた。田はあり、家族も働き、蔵には米俵も積まれている。何も変わらないように思えた。 しかし豊作の秋、源蔵は思い知らされる。 米はある。けれど、税を払う金が足りない。 土地には値段がつき、米にも値段がつき、農家の暮らしは少しずつ追い詰められていく。やがて源蔵は、祖父の代から守ってきた田を一枚売る決断を迫られる。 「米を作るだけじゃ、駄目な世の中になったんだ」 父がその言葉を口にした日、息子も娘も、それぞれの人生を選び始める。 明治という新しい時代の波が、一軒の農家に突きつけた残酷な現実とは――。時代|歴史1.4万字5 58 -
完結第10話
帰った家に、知らない親子がいた
昭和19年、東京・深川に暮らす11歳の佐野正一は、母に見送られて長野の寺へ集団疎開する。 「戦争が終わったら、またここへ帰ってくるんだから」 その言葉を信じ、正一は疎開先で家族からの便りを待ち続けた。けれど昭和20年3月、東京を襲った大空襲のあと、母からの葉書は一枚も届かなくなる。 終戦後、ようやく深川へ戻った正一を待っていたのは、見覚えのある町ではなかった。焼け跡、消えた目印、変わり果てた道。そして、かつて自分の家があった場所には、見知らぬ母娘が暮らす粗末な小屋が建っていた。 「ここ、僕の家です」 そう訴える正一に、女は一つの焦げた表札を差し出す。そこには、確かに「佐野」と書かれていた。 なぜこの女は、佐野家の表札を持っていたのか。 正一の母は、あの夜、何を託したのか。 これは、戦争で家も家族も失った少年が、“本当に帰る場所”の意味を知っていく物語。時代|昭和1.5万字5 259 -
完結第11話
姉の代わりに嫁いだ私
大正14年、京都の呉服商「松木屋」で、18歳の志津は父から残酷な命を受ける。 亡くなった姉・千代の代わりに、姉の婚約者だった宗一郎と結婚しろ――。 姉の葬儀からまだ12日。悲しみも癒えないまま、志津は家の借金と跡取り問題のために、自分の人生を差し出されることになる。 望まれない祝言、姉と比べられる日々、傾きかけた店。そして、夫となった宗一郎もまた、家のために夢を諦めた人だった。 やがて志津は、亡き姉が隠していた一通の手紙を見つける。 そこに書かれていたのは、姉が最後まで抱えていた本音と、志津の人生を大きく変える言葉だった。 「姉の代わり」として嫁いだ娘が、時代と家に縛られながらも、自分の生き方を選び直していく物語。時代|歴史1.6万字5 299 -
完結第11話
2本のさつま芋
「母ちゃんが、闇米を買っています」 昭和24年、14歳の正夫は、自分の母を交番へ突き出した。 父を戦争で亡くし、幼い弟妹を抱えながら必死に働く母。けれど正夫は、学校で教えられた「闇取引は悪いこと」という言葉を信じていた。 翌日、警察が家に来た。米袋を調べられ、母は事情を聞かれることになる。玄関で泣きじゃくる妹。母の袖をつかむ幼い弟。そして、最後に正夫を見つめた母は、怒鳴ることも責めることもなく、ただ一言だけ残した。 「弟たちを頼むね」 その夜、台所には食べ物がほとんど残っていなかった。 正しいことをしたはずなのに、なぜ家族は泣いているのか。 空腹の夜を越えた正夫は、初めて気づくことになる。 自分が守った「正しさ」は、誰を救い、誰を傷つけたのか――。時代|昭和1.7万字5 2979