"焼け残った家を壊せと言われた" 第4話
だが実際には、この所が残ったことで、焼けされたたちへを渡すことができた。
「どうして父さんは話さないの?」
「話したくないこともあるんだよ」
ハルはそれ以説せず、「最まで見てみな」と帳面を指した。
信はさらにページをめくった。
昭203。
4。
5。
しずつ名が減っていき、が戻った頃には記録も途切れている。
その最のページに、折り畳まれた枚のが挟まっていた。
帳面よりもさらに黄ばんだいで、部には当の区役所名が印刷されている。墨が滲んで読みづらかったが、央にははっきりと《臨共同所》という文字があり、そのに《相沢清吉方井戸》とかれていた。
信は息を止めた。
「母さん、これ……役所のじゃないか」
ハルの顔から、それまでの穏やかな表が消えた。
信がを裏返すと、さらに鉛きの文が残されていた。
《本井戸、復旧も非常用として置を願う》
その横には。
清吉の名ではない。
の男の署名があった。
信は、その名字をっていた。
今回の区画理説会で、役所側の責任者として毎回に座っている男と同じ名字だった。
「母さん」
信はを持ったまま尋ねた。
「この、誰なんだ?」
ハルはすぐには答えなかった。
そして、玄関の引き戸がいた。
町内会から戻った清吉が、帳面をにしている信を見た。
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父の顔が変わった。
「……それを、どこからした」
信は初めて見た。
を失うと言われても鳴るだけだった父が。
枚の古いを見て。
らかに揺している姿を。
清吉は帳面を取りげようとはしなかった。茶のへがり、しばらく黙って煙を本吸ったあと、「おに見せるつもりはなかった」とい声で言った。ハルは何も弁解せず、湯を沸かしながら夫が話し始めるのを待っていた。
「どうして隠してたんだよ。役所が昔、この井戸を共同の所として使ってたなら、今度の話だって何か変わるかもしれないだろ」
信が言うと、清吉は首を振った。
「変わらんよ。あれは戦争のだ。の権利でもなけりゃ、井戸を永久に残す約束でもない」
それでも信には納得できなかった。なくとも、相沢の井戸が単なる個の井戸ではなく、非常に域へかれた所だったことを示す記録にはなる。役所へ相談する材料として、何もないよりははるかにがあるはずだった。
清吉は煙を皿へ押しつけた。
「そのをいたのは、当区役所から来ていた杉原さんというだ。焼け跡を回って、使える井戸を調べていた。今説会にてる杉原って男は、そのの息子だ」
信は驚いた。
戦争が終わって3しか経っていないとはいえ、まさか現の担当者の父親が、この井戸と関わっていたとはわなかった。
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清吉は、ようやく空襲の話を始めた。
が消えた翌朝、周囲にはを求めるがあふれていた。相沢の井戸も最初は族と所数軒だけで使うつもりだったが、清吉が戸へ「あります」といた板をてたことで、が気に集まったという。
量がいつまで持つか分からない。
それでも。
追い返せなかった。
焼けたのに座り込む。
喉をからした子ども。
包帯もないまま。
傷をやしたいという男。
清吉とハルは井戸をいた。
そこへ区役所の杉原が来た。彼は「この辺りの臨所として使わせてほしい」と頼み、役所から桶や簡単な消毒用品を持ってきた。それが帳面に挟まっていただった。
「じゃあ、最の『置を願う』っていうのは?」
「杉原さんが勝にいたんだ。こんな井戸は、町が戻っても残した方がいいってな」
清吉は苦い顔をした。
「でも、あのは翌にくなった。病気だった。正式な続きなんか何もしてない」
信はし落胆したが、それでものがなくなったわけではないとった。
翌、彼は父の許を得て、役所の杉原正を訪ねた。説会で何度か見た40代半ばの男で、父親の話をすと、驚いたように何度もを見返した。
「これは父の字です」
杉原はそう言った。
幼い頃、父が戦災直に町の所を回っていたことは聞いていたが、相沢の名までは覚えていなかったらしい。
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