"焼け残った家を壊せと言われた" 第9話
子どもは丸い井戸を珍しそうに覗き込み、「これ、なに?」と尋ねた。
母親はすぐには答えなかった。
板にかれた文字を読み。
し考えてから。
言った。
「昔、この町を助けた井戸なんだって」
信はわず母子の方を見た。
その女性が空襲を経験した齢には見えない。きっと誰かから聞いた話を、そのまま子どもへ伝えたのだろう。
「どうやって助けたの?」
子どもが尋ねる。
「戦争でがなくなった、みんなここへ汲みに来たんだって」
「いっぱい?」
「いっぱいだって」
はそれ以ち止まらず、をつないで歩いていった。
信はしばらく井戸のからけなかった。
父が。
あれほど。
守ろうとした。
もの。
それが。
ようやく。
分かった気がした。
ではない。
でもない。
自分たちだけの。
いでもない。
焼け跡ので。
を分けた。
記憶。
誰かが。
誰かを。
見捨てずに。
暮らした。
。
それを。
次のへ。
渡したかったのだ。
昭23、清吉は「焼け残ったをなぜ壊さなければならない」と役所へ鳴った。あのの彼にとって、復興とは奪われたものを元へ戻すことだったのかもしれない。
しかし町がまれ変わっていくで、清吉自もしずつ理解していった。
元通りにするだけが。
復興ではない。
狭いを。
広くする。
危険だった町を。
全にする。
商売の所を。
移す。
古いを。
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壊す。
そして。
それでも。
残すべきものは。
残す。
何もかも昔のまま抱えれば、しい代へめない。
けれど何もかも消してしまえば、自分たちが何を乗り越えてここへ来たのかまで分からなくなる。
信はへ帰ると、古い帳面を久しぶりにいた。
ハルがいた。
名。
数。
付。
そのつつの向こうに。
らない族の。
暮らしがある。
最のページには、今もあの古いが挟まれていた。
《本井戸、復旧も非常用として置を願う》
戦争直に役所の男が残した、正式な命令でも契約でもない文だった。
それでも。
願ったがいた。
守ったがいた。
名をいたがいた。
そして3。
壊すべきものと。
残すべきものを。
町のたちが。
もう度。
選んだ。
信は帳面を閉じ、しいのへた。
先では清吉が常連客と話していた。焦げ跡の残る古い札のから、来たての豆腐の湯気がくがっている。
しい町。
しい。
古い板。
古い柱。
そして。
しれた端には。
今も。
のる井戸。
そのどれかつだけが相沢の歴史なのではない。
壊したことも。
残したことも。
移ったことも。
そこから。
もう度。
商売を始めたことも。
全部わせて。
戦争のを。
きた。
族のだった。
昭23。
町はまだ完成していなかった。
々もまた。
失ったものを。
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完全に。
乗り越えたわけではなかった。
それでも。
次の代を。
作るため。
しずつ。
選び直していた。
何を捨てるのか。
何を持っていくのか。
何を次の世代へ。
残すのか。
復興とは。
しい建物を。
建てることだけではない。
過を。
忘れずに。
それでも。
へめる形へ。
作り直すこと。
だったのかもしれない。
そして相沢の井戸は、その答えをっているように、変わっていく町の片隅で静かにを湛え続けていた。
それからさらに数が過ぎた頃、信は父の清吉に代わって相沢豆腐を切り盛りするようになっていた。駅の通りには以よりくのが並び、をる自も珍しくなくなり、戦争直の焼け跡をるはしずつ減っていた。信にも妻との子どもができ、男は学から帰るとの奥へ入り、祖父の清吉に豆腐を切るつきを教えてもらうようになっていた。
清吉はを取ってから、昔ほど戦争の話を避けなくなった。それでも自分から々と語ることはなく、子どもたちに「昔この町は全部焼けたんだろ」と聞かれれば、「全部じゃない。残ったものもあった」と答える程度だった。信には、その言葉のに父がいをかけて受け入れてきたものが、静かに込められているようにえた。
あるの、町内会から井戸の囲いを修理するので相談に来てほしいというらせが届いた。
柵の部が傷み、案内板の文字もくなっていたため、これをにしく作り直したいという話だった。
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