"18年妻だったのに、他人にされた" 第2話
清吉がくなった以、それらを理しなければならないと惣兵は説した。
「追いしに来たわけじゃない。だが、何もなかったことにはできないんだ」
千代は返事をしなかった。
その、襖の向こうでさな音がした。振り向くと、女のふさが青ざめた顔でっていた。いつから聞いていたのか分からなかったが、目にはすでに涙が浮かんでいる。
「お母さんは……お父さんの奥さんじゃないの?」
千代は娘へ答えることができなかった。
昨まで自分が疑うことさえなかった問いに、今の自分は答えを持っていなかった。
それから数、千代には町全体が昨までと違って見えた。魚の女将はいつも通り「奥さん、今は鯖がいいよ」と声をかけ、酒を買いに来た旅籠の主も「清吉さんがいなくなって変だろう」と配してくれた。誰も事をらないからこそ、当たりのように投げかけられる「奥さん」という呼び名が、千代には借り物のように聞こえた。
方で、を休むことはできなかった。葬式の最にも宿の旅籠から注文が入り、農への掛け売りも残っている。清吉を失ったからといって帳面の数字が止まるわけではなく、千代は朝から先へち、酒を量り、代を記し、夜になると灯のでの勘定をわせた。
14歳の啓太郎も、父がくなったから急にびた。
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学から戻ると黙って酒樽を運び、所への配達にて、夜になると父が残した古い帳面を読み始めた。千代が「まだ子どもなんだから」と止めても、「父ちゃんがいないんだから仕方ない」と答え、休もうとはしなかった。
もっと刻だったのは、女ふさの縁談だった。
ふさには半ほどから、隣町の酒問・の次男である栄吉との話がんでいた。栄吉は21歳で穏やかな青であり、何度か顔をわせたふさ自も嫌がっていなかったため、清吉も「までには話を決めたい」と楽しみにしていた。
ところが葬式から10ほど経った頃、から使いの者が来た。ふさの戸籍と松乃のの事について、改めて確認したいという申しだった。千代はその言葉を聞いた瞬、胸の奥がたくなるのをじた。
惣兵は「余計なことは話さなくていい」と言った。
「清吉の子であることは違いない。ふさの縁談にまで千代さんの話を持ち込む必はないだろう」
「では、私は何ということになるんです」
千代が尋ねても、惣兵は確には答えなかった。
ふさは襖の向こうでその話を聞いていたらしい。その夜、皆が寝静まったあとに千代の布団の横へ座り、「縁談を断る」と突然言いした。
「駄目よ。何を言っているの」
「だって、お母さんのことを隠して嫁にくなんて嫌だもの」
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「あなたには関係ないことです」
千代はわずい調になった。ふさのまで自分の問題に巻き込みたくない、そのだった。
しかし、ふさは泣きながら首を振った。
「関係あるよ。私のお母さんなのに。18ここで働いて、お父さんと暮らして、私たちを育てたのに、に名がないだけでらないみたいにするなら、そんなに嫁にきたくない」
千代は娘を叱ることができなかった。
翌、今度は啓太郎が惣兵を訪ねた。千代には黙って本までき、「松乃を返したら母ちゃんはどうなる」と尋ねたらしい。惣兵が「必なら本で面倒を見る」と答えると、啓太郎はった。
「母ちゃんは面倒を見てもらうじゃない」
「子どもがをす話ではない」
「じゃあの話ならいいだろ」
啓太郎は、持ってきた帳面を畳のへ置いた。
そこには10以にわたる松乃の売掛、仕入れ、返済、得先の記録が細かな字でびっしりかれていた。清吉の字もあるが、半分以は千代の跡だった。
「この印、全部母ちゃんがいたところだ」
誰にいくら貸したか。どの農なら収穫まで待てるか。どの旅籠が末にまとめて払うか。誰が約束を守り、誰にはし厳しく取りてるべきか、そのすべてを清吉より千代の方が把握していた。
「この、父ちゃんでやってたわけじゃない」
啓太郎は伯父をまっすぐ見た。
「それとの決まりは別だ」
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