"18年妻だったのに、他人にされた" 第9話
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完結第11話
卒業写真にいた父
昭和40年、北関東の小さな町にある写真館で、小学校の卒業写真が撮られた。 六年二組、38人。式を終えた子どもたちは、胸に紙の花をつけ、少し誇らしげにカメラの前へ並んだ。数日後、記念写真は全員に配られるはずだった。 しかし、三上健司の分だけは届かなかった。 写真館の店主は「失敗した」とだけ告げたが、健司にはどうしても納得できなかった。自分だけ写真をもらえなかった理由を知らないまま、彼は大人になり、故郷を離れていく。 それから長い年月が過ぎ、閉店間際の写真館を訪れた健司は、古い封筒の中に残されていた一枚の写真を見つける。 そこには、確かに12歳の自分が写っていた。 では、なぜあの日、その写真だけ焼き増しされなかったのか。 写真の端に写り込んでいた小さな影が、健司の知らなかった家族の秘密を静かに映し出していた――。時代|歴史|昭和1.7万字5 1112 -
完結第11話
この家は俺のものだ
昭和23年、信州の小さな温泉町で、古い旅館「松乃屋」の主人が亡くなった。 葬儀の後、長男の正一は当然のように言い放つ。 「この家は全部、俺が継ぐ」 長男が家を守り、嫁いだ娘は実家の財産に口を出さない。それが、この町では長い間“当たり前”だった。 しかし翌朝、妹の文江が町役場から一枚の紙を持ち帰る。そこに書かれていたのは、新しい民法によって家制度も家督相続も廃止されたという事実だった。 父が守れと言い残した旅館。長男として人生を縛られてきた兄。嫁ぎ先から戻る場所を失った妹。 「家」とは、誰のものなのか。 戦後の価値観が大きく揺れ始めた時代に、三人兄妹は父の残した松乃屋と向き合うことになる――。時代|昭和1.7万字5 215 -
完結第10話
焼け残った家を壊せと言われた
昭和23年、戦争の傷跡が残る東京の下町で、信一は父とともに、空襲を奇跡的に免れた小さな豆腐屋を守っていた。 ところがある日、役所の職員が店先に白い杭を打ち、「この場所には、もう家を建て直せません」と告げる。新しい道路の予定地になったため、焼け残った家も取り壊さなければならないというのだ。 駅近くの換地へ移れば、商売を大きくできる。そう考える信一に対し、父の清吉は頑として立ち退きを拒み、母まで「この家を離れられない」と言い出した。 なぜ両親は、暮らしやすい新天地より、焼け跡に残った古い家にこだわるのか。 やがて母が仏壇の引き出しから取り出した一冊の帳面によって、信一は、この家に戦後から守られてきた「ある記憶」があることを知る――。時代|昭和1.5万字5 22 -
完結第10話
毎日パンを持ち帰る少女
昭和38年、東京近郊の小学校で、5年生の和美は毎日、給食のコッペパンを半分だけ鞄にしまって帰っていた。 貧しいからなのか。家に小さな弟がいるからなのか。教室では噂が広がり、担任の芳江もその理由を気にかけるようになる。 しかし家庭訪問で分かったのは、和美の家が食べ物に困っているわけではないということだった。 それでも祖父は、孫が持ち帰るパンを毎日じっと見つめ、決して食べようとはしない。 なぜ老人は、学校で出された一個のパンにそこまでこだわったのか。 その理由には、戦争と食糧難の時代を生き抜いた祖父が、長い間胸に抱え続けてきた記憶が隠されていた――。時代|歴史|昭和1.5万字5 216 -
完結第11話
新幹線の日、父は駅弁を売らなかった
昭和39年10月1日。東海道新幹線が開業し、日本中が「夢の超特急」に沸いていた朝。 静岡の小さな駅で30年駅弁を売ってきた石田栄吉は、その日だけ木箱に弁当を詰めようとしなかった。 炊き上がったご飯も、煮物も、玉子焼きもある。駅前には祝賀の小旗が並び、息子の明夫は「今日こそ一番大事な日だ」と父を責める。 しかし栄吉は、古い腕時計を見つめたまま静かに言った。 「今日は売らない」 新幹線の時代を嫌ったのか。それとも、変わっていく世の中についていけなくなったのか。 だが昼前、明夫は家に残された古い時刻表を見つける。赤鉛筆で丸をつけられていたのは、もう二度と同じ形では来ない一本の普通列車だった。 父が本当に見送りたかったものは、列車だけではなかった――。時代|歴史|昭和1.6万字5 351 -
完結第10話
出征前、父が婚姻届を出した
昭和18年、戦局が悪化する中、法律を学んでいた大学生・藤原正一にも出征の知らせが届く。 長男として家を継ぐはずだった息子が、いつ戻るかも分からない戦地へ向かう。その現実を前に、父・宗吉は正一の婚約者・志津子を呼び、突然こう告げた。 「今すぐ、藤原家の嫁になれ」 息子に何かあった時、婚約者のままでは守れない。そう考えた父の決断だった。だが志津子は、家族全員の前で静かに首を振る。 「私は正一さんと結婚したいんです。藤原家を守るために嫁になるんじゃありません」 出征を前にした息子、家を守ろうとする父、そして自分の人生を他人に決められまいとする婚約者。 別れの日、駅のホームで父が取り出した一枚の婚姻届が、三人の運命を大きく変えていく――。時代|昭和1.5万字5 486 -
完結第11話
日本人に戻れた父、戻れなかった娘
昭和27年4月28日。講和条約が発効し、日本が再び独立国として歩み始めた日、父はラジオの前で静かに喜んだ。 「これで俺たちも、ようやく日本人に戻れたようなもんだ」 しかし、20歳の娘・美津子だけは笑わなかった。 彼女は満州の奉天で生まれ、13歳までそこで暮らした。父にとって日本は「帰ってきた祖国」だったが、美津子にとって日本は、戦後に初めて足を踏み入れた知らない土地だった。 引き揚げ後の暮らし、周囲の視線、結婚を前に突きつけられる“向こう生まれ”という言葉。 「私の故郷は、誰が決めるの?」 講和の日に交わされた父と娘の一言は、長く黙ってきた家族の傷を静かに浮かび上がらせていく――。時代|歴史1.6万字5 60