"古道具屋の制服" 第2話
リビングに置かれたみ咲の写真は18歳のまま微笑んでいる。 わこは毎その写真を磨き、は仏壇にをわせる。 ただ、そこに会話はない。 言葉にすれば、張り詰めた何かが崩れてしまいそうだった。 いのに全てが閉ざされるように、族はそれぞれの胸のうちに声にならない叫びと祈りを閉じ込めていた。 潮のりが運んでくるのはもはや希望ではなく、ただただたい喪失の記憶だけだった。
15目のタイムカプセル
15という歳は、港町を緩やかに、しかし確実に変えていた。 2016の、樽駅に広がる景は、かつての記憶をめるようにしいビルや洒落たカフェが点している。 観客の喧騒は相変わらずだが、その景もどこか軽やかに代の移り変わりを映していた。
しかし、駅からしれた古い商の角に佇む古具「港や」だけは、の流れから取り残されたように昔ながらの空気をまとっていた。 入のガラス戸につけられた真鍮の鈴が、シリンと乾いた音をてる。 主の藤は、カウンターの奥で古びた帳簿から顔をげた。
内は持ち主を失った品々が発する独特の匂いで満ちていた。 古着の匂い、埃っぽさ、微かな旅の気配、そして誰かのが染みついた布の匂い。 それらが完全体となり、檻のように空気に溜まっている。
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井から吊るされた裸球の頼りないが、細く積みげられた具や雑貨にまだらなを落としていた。
数に、の男が軽トラックで持ち込んできた古い桐タンスが、の隅で静かに番を待っていた。 特に名のある職の作でもなく、使い込まれて角は丸くなり、表面にはいくつもの傷がついている。 藤は商品を先にすにを確かめ、空拭きするのが常だった。
「よっこいしょ」
季の入った腰をさすりながら、彼はタンスの1番の引きしにをかけた。 肌がきしむ音がする。 湿気を含んだのか、引きしは途までしかてこない。 何度か揺さぶると、に抵抗が消え、い引きしが勢いよく藤の元に滑りした。 には何か、黒っぽい布の塊がきちんと折りたたまれて収まっていた。
「なんだこりゃ、古い着物か」
独りごちながら、彼はその布をゆっくりと持ちげた。 広げてみると、それは紺のセーラーだった。 襟には3本のいライン。 樽内の、あのの制だ。
藤のがピタリと止まる。 古具をくやっていれば様々なものにくわすが、こんな形で学がてくるのは珍しかった。 しかも、まるで昨まで着ていたかのように、自然なほど綺麗に畳まれている。 しまい込まれていたにしては、虫いの跡もない。
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藤は言いれぬ胸騒ぎを覚えた。
制をにしたままぼんやりとち尽くす窓から、差し込むが埃をキラキラとの筋に変えている。 その、ふと制の胸ポケットにさな膨らみがあることに気がついた。 い触が指先に伝わる。 彼はまるでパンドラの箱をけるかのように、震える指でポケットにを入れた。
指が触れたのは、ひんやりと滑らかなさな固形物だった。 そっと取りすと、それは1枚のに丁寧に包まれていた。 をくと、から現れたのはを受けて青く透き通る、ガラス細のさなイルカだった。 職の仕事が産んだそのイルカは、15というを忘れさせるほど瑞々しく、まるで今にも尾を振って泳ぎしそうに見えた。
そして、それを包んでいた便箋。 そこには女のものとわれるし丸みを帯びた文字が、滲んだインクで綴られていた。
藤は樽でまれ育った。 15のあの事件を忘れたわけではなかった。 先のまだ肌寒い季節に忽然と姿を消した女子。 連テレビや聞で報じられたニュース、なお持ち続ける両親の姿、を覆ったくたいの空気。 記憶の断片が気に蘇る。
まさか、そんなはずはない。 しかしのひらにあるセーラーとガラスのイルカが、忘れろうとしていた過を容赦なく現に引きずりした。
背筋をたい汗が伝っていく。
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